記憶の断片小説「卒業」はじまりの話

記憶の断片小説 ロ―ドム―ビ― 「卒業」はじまりの話
ニジムラリョー

ガラリ、と教室の扉が開く音がする。
机に突っ伏していた頭を持ち上げると、テストを小脇に抱えた先生が入ってきた。
出席簿で教卓をバシバシと叩くと
「そんじゃあ数学のテスト返却するぞ」
とやる気の無い声で言った。
えぇー、と生徒のブーイング。
ダメ元での抵抗。俺も小声で参加する。

俺は自分の名前が呼ばれるまで、再び机に突っ伏した。
すぐに睡魔が俺の意識を遠のかせる。
春眠暁をなんとやら、だ。
「おい、起きろ」
先生が俺の頭を出席簿の角で小突いた。
「お前、現国と古文漢文は点数良いのに、数学は本当にダメな」
俺にテストを手渡しながら先生は続ける。

別に国語が好きな訳じゃなかった。
ただ、学校を休んだら図書委員にされていて、
図書委員になったら毎月学内で発行される活動報告書に、
その月に読んだお薦めの本を書かなきゃならなくて、
偶然手にとった本がそこそこ面白くて、それを自分で文章にするのも面白くなって、
何となく、気づいたら文章ってのが好きになってた。
面白くなって、最近は友人の読書感想文の代筆なんかも、こっそり引き受けている。
他の人間になって文章を書くのも、なかなか面白い。

ちょっと前に、その噂を聞いた同級生のバンドマンから
「オリジナルのラブソングを書いてくれ!」って言われて、辟易しながら書いた事もある。
絶対にボツるだろうなー、と思っていたら案外ウケた様で、意外だった。
挙げ句の果てに
「この前のウケが良かったから、また書いてよ。今度は暴力的なの」
なんていう依頼まで受けてしまった。

頼られるのは、気持ちが良いものである。
才能があるのかも、と自惚れる程では無いけれど、
格好つけて聴き始めた洋楽の歌詞を自分なりに和訳しては、
一人でニヤニヤする程度に、言葉とか文章ってのは好きなワカゾーにはなっていた。

***

I will never bother you
I will never promise to
I will never follow you
I will never bother you

二度と会う事も無いよ
もう「約束」をしない
二度と一緒に歩かないよ
もう姿を見せない

Never speak a word again
I will crawl away for good

口を噤んで目も耳も閉ざすさ
そうやってずっと一人でいるよ

I will move away from here
You wont be afraid of fear
No thought was put in to this
I always knew it would come to this

この街から出て行くさ
だからもう気にしないでくれよ
何も考えて無かったのさ
だからこうなったんだ笑えよ

Things have never been so swell
I have never failed to feel

面白い事なんて何も無かった
正しいと思った事も無かった

Pain
Pain
Pain

笑えよ
だけど
せめて

You Know your Right

愛してたって言ってくれ

***

正しい和訳じゃないだろうけど、こんな風に格好つけてみては、
それを読み返してニヤニヤしている。
まだ小っ恥ずかしくて他人には見せられないけど、
俺もいつか、こんな「深い人生観」みたいなのを得る時がくるのかな。
そんな事をボンヤリと考えていた。

少しだけ痒い右瞼を引っ掻いた。
引っ掻いた右瞼にピリっとした痛みが走った。
外は春の風が吹いている。
俺は一人だなんて思った事が無かった。
ただ、暗かった。

眠ろう。
ゆっくりと目を閉じる。いや、ずっと閉じていたのかも知れない。
いつから目を閉じていたのかもわからない。
夢を見ていたのかも知れない。
目を開けたくない。
眠い。
朝なんて来なければいいのに。