記憶の断片小説「卒業」(12)

記憶の断片小説ロードムービー「卒業」(12)

俺はヨシトやライチと連絡を一切取らなかった。
ロイドとも連絡を取らなかったし、ユキとも連絡を取らなかった。
mixiなどのSNSを通じて、連絡を取ろうと思えば取れる距離感にいながら、
自ら連絡を取る事は一切無かった。

俺の日々は、言葉で埋め尽くされた。
過去の日々を告白する様に、言葉で埋め尽くした。
それは懺悔でも後悔でも無く、俺の証明の為だった。
推敲もまともにされない、粗雑で乱暴な言葉で埋め尽くす。
それは自分に対する呪詛の様なものでもあった。
俺は誰と殺し合いのような戯れ合いを出来ずにいた。
だから俺は俺と殺し合いの様な戯れ合いをし続けた。
ネットの投稿サイトに、俺は言葉を投稿し続けた。
俺は俺を殺し続け、俺は俺を呪い続けた。
雨が降る。夢を見る。
俺は俺を殺す。
雨が降る。夢を見る。
俺は俺を呪う。

一年が経った。
ネットで知り合った女と寝た。一晩で終わった。
帰りに打ったパチンコで千円が三万円になった。

二年が経った。
バイト先で知り合った女子高生と付き合った。
面白くなかった。半年で別れた。

三年が経った。
再び連絡を取り始めたロイドを好きになった。
告白した。
いつもそばにいてくれる訳じゃないと言われた。

四年が経った。
何の気なしに、mixi経由でライチに連絡を取った。
憎悪も遺恨も何も無かった。純粋に挨拶をした。
そして、井の頭公園で再開した。

その日、俺はいつも嫌いで持たなかった傘を持って家を出た。
理由はわからなかった。
井の頭公園に着くと、静かに雨が降り始めた。
待ち合わせた場所には、ライチが一人立っていた。
ライチは傘を持っていなかった。
目があった。
笑った。

俺とライチは、一つの傘に入って公園を歩いた。そして喋った。
沢山の事を喋った。四年前の事を喋った。
この四年間の事を喋った。歩きながら喋った。
まるで四年前に、仙川沿いを喋りながら歩いた様に。

この四年間、俺はライチに連絡を取らなかった。
だが、ライチは俺が投稿し続けていた言葉をずっと読んでいた。
俺は驚いたが、納得もした。ライチはそういう女だった。
この女と、四年前に俺は殺し合いの様なやり取りをしたのだと思い出した。

久しぶりに、呼吸をした気がした。

***

俺は安堵する。俺を理解している人間がいる事に。

あれから何度目かの夏がくる。
俺はあの日の俺に殺される夢を見ながら生きている。
俺はもう自分を呪わなくなったし、自分を殺さなくなった。
だけど、あの日の俺が、今の俺を殺しに来るんだ。

黒いスーツを着る。
髪を後ろに撫で付ける。
ネクタイを締める。
鏡に向かって笑う。
ライチは今日、結婚する。

***

あの日の俺が今の俺を殺しにきている。
俺はゆっくり目を覚ます。
あれから何度目かの春が過ぎようとしている。
外は春の雨が降っている。
俺は部屋で一人、煙草に火をつけた。
外は雨が降っている。夏を告げる雨が降っている。
俺は部屋で一人、雨の音を聞いている。